京の景観ガイドライン改訂と屋外広告士——看板は「つくって終わり」ではない

屋外広告

京都の看板をめぐるルールが、静かに次の段階へ進んでいる。2026年3月、京都市が「京の景観ガイドライン(広告物編)」を改訂した。中身を読むと、「してはいけないこと」の解説書から、「どうすれば良い看板になるか」の手引きへと性格が変わっている。一方で、看板の安全点検は年々厳しくなっている。美しさと安全。今回はこの二つをまとめて整理したい。


「違反をなくす」から「魅力をつくる」へ

京都市は平成19年(2007年)の新景観政策で、屋上看板の全面禁止など、全国でも際立って厳しい規制を敷いた。ガイドラインによれば、違反広告物の適正化は99パーセントまで進んだという。

守りの仕事はほぼ終わった。だから次は魅力づくり、ということだと思う。改訂版は冒頭で、目立てばよいというものではなく、誰からも心地よく見られる広告物を目指すと掲げている。章立ても次のとおりだ。

  • 魅力ある広告景観づくりのために(3つの視点)
  • デザインの作法
  • 広告物ごとの配慮事項
  • 条例による規制/広告物に関する制度
  • 安心・安全な屋外広告物
  • Q&A

規制の解説より先に、デザインの話が置かれている。この順番に市の意図が表れていると感じる。


3つの視点は「知る。合わせる。魅せる。」

  • 知る。 — 地域・周辺・人を知る。昼だけでなく夜にも現地を訪れ、雰囲気を感じ取る
  • 合わせる。 — 地域の雰囲気、建物のデザイン、見る人の状況に合わせる
  • 魅せる。 — トータルデザインと、もてなしの心で魅せる

続く「デザインの作法」は、情報・文字・図と記号・色彩・素材の5項目。具体的な数字が多く、現場でそのまま使える内容になっている。

  • 人が移動中に看板へ視線を向ける時間は0.3秒。読み取れるのは歩行者で15文字程度、ドライバーで7文字程度
  • 伝えたい情報は3つ程度に絞り、詳細はWebで発信する
  • 色数は2〜3色。配色の割合はベース70:メイン25:アクセント5
  • 純白や純黒より、きなり色や墨色のほうが町並みになじむ

0.3秒と7文字。電話番号も営業時間もキャッチコピーも全部載せたい、という気持ちは、この数字の前では分が悪い。


のれんからデジタルサイネージまで

「広告物ごとの配慮事項」は9種類。壁面看板や袖看板に加え、幕・のれん、ポスター・貼り紙、照明付き広告物、そしてデジタルサイネージが並ぶ。

サイネージへの配慮は特に細かい。

  • 昼間の明るさ設定のままでは、夜はまぶしすぎる
  • 動きの速い動画は避け、静止画を挟む。切り替えはゆっくりフェードさせる
  • 音は原則なし
  • 地色は真っ白ではなく、ライトグレーやアイボリーに
  • 装置をむき出しにせず、建物になじむ筐体に収める

なお、ガイドラインは許可基準そのものではない。大きさや色彩の基準は条例で別に定められている。ただ、基準を満たすだけの看板と、作法まで踏まえた看板とでは、市との相談の進み方も、まちからの受け取られ方も違ってくるのではないかと思う。


安全点検は「高さ4メートル・設置後9年」

もう一つの流れが、安全点検の厳格化だ。

京都市は条例を改正し(令和3年4月施行)、許可の有無にかかわらず全ての屋外広告物に管理義務を課した。表示者・設置者・管理者に加えて、所有者と占有者にも責任があると明記されている。テナントとして入居しているだけの店舗も、無関係ではいられない。

さらに令和6年4月からは、有資格者による点検の対象が広がった。

  • A:上下の長さが4メートルを超える広告物(従来から対象)
  • B:地上から上端までの高さが4メートルを超え、設置後9年を経過する広告物(新たに対象)

ビルの2階より上に付いた袖看板は、多くが当てはまる高さだ。許可の更新は3年ごとで、その際に点検報告書の提出が求められる。

点検できるのは、屋外広告士、屋外広告物点検技能講習の修了者、建築士、電気工事士など、市が定めた資格を持つ者に限られる。屋外広告士は、関係法規・広告デザイン・設計施工の学科と実技からなる試験の合格者に与えられる、看板の専門資格だ。

近隣も同じ方向にある。大阪府は高さ4メートル超の広告物について、所有者・占有者に有資格者点検を義務付けている。姫路市は「高さ4メートル超・設置後8年」を条件に令和6年4月から義務化した。奈良県も令和6年10月に点検を義務化し、令和9年10月からは高さ4メートル超に有資格者点検を求める。


道頓堀の火災が突きつけたもの

2025年8月、大阪・道頓堀のビル火災で消防隊員2人が亡くなった。2026年1月に公表された調査報告書によると、炎は外壁の装飾広告を伝って上へ広がり、隣のビルへ延焼した。装飾広告4カ所のうち3カ所は建築基準法に反し、不燃材料が使われていなかったという。

看板が火の通り道になった。広告に携わる者として、これほど重い事実はない。

街を車で走っていると、錆びた骨組みだけが残った看板や、廃業した店の名前が色あせたまま掲げられている看板を見かける。ガイドラインも、廃業後に放置された広告物は景観にとってマイナスだとはっきり書いている。景観の問題であり、同時に、いつか落ちてくるかもしれない安全の問題でもある。


看板は、まちへの約束

美しい看板の作法と、点検の義務。別々の話のようで、根は同じだと思う。看板は個人や企業の持ち物でありながら、誰の目にも入り、誰の頭上にもある。掲げた瞬間から、まちに対する責任が生まれる。

つくって終わりではなく、見守り続ける。そのための資格であり、点検であり、ガイドラインなのだと感じる。京都の看板が、これからも安全で、安心して見上げられるものであり続けることを、心から願っている。

(広報担当)

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